私は普段ファッション史について書かれたものをたくさん見ます。
そして1900年のところでいつも
と思います。
ファッション史の超有名な『S字曲線』について、いつもこんな書き方をされています。
「コルセットで胸を強調し、腰を後ろにつきだし、横から見るとS字のようなラインに見える」
「これは当時流行ったアールヌーボーのスタイルに沿っている」
?はてな??
ほかの記述を読んでも同じ。
なぜ私に???はてな??と思わせるのか??
目次
現役ファッションデザイナーを驚かせるファッション史の記述
だって「コルセットで胸を強調し」って言われたら、
横から見て胸の部分が一番前に出ていると思えませんか?
「コルセットで、腰を後ろにつきだしたスタイル」
って書かれるとコルセットで腰を後ろに突き出させたんだ~、
っと思いますよね?
そんで、この文章から「横から見るとS字に見える」って言われても私にはこの書き方ではS字と言うより「く」しか想像できません。
なんかセクシーダイナマイトなべティちゃんしか思い浮かびません・・
「コルセットで胸を強調」したのは、実は女優やパーティー用ドレスで流行ったごく一部の特別なスタイル。
たしかに下着姿に限り胸は一番出ていて、強調されています。
でもここ100年ほど胸を強調することは流行ではありませんでした。だから急に」胸を強調しよう!!と言われても無理。
じゃあ、S字曲線スタイルの真実って?
本当の日常で使われていたS字曲線はコレ!↓
これだと確かにS字曲線!!
- 一番出ている部分は胃
- ヒップ上部には三日月クッション
優雅に一番出ている部分は胃でしょ?
日常生活では誰も胸を強調してはいないんです。
だって胸を強調することは長い間下品でしたから。
中でも胸の谷間が二つに分かれているのが最も下品!!
なので胸がメロンのように一つに見えるようにパットを入れたり、おおったり。
そして優雅な曲線を描かせるために、①のように胃のあたりのブラウスをわざとふくらませて突き出していました。
「ボレロのすそからのぞく柔らかい布」という趣向で、その名も「メルルーサ(魚の一種)」・・
S字曲線の目的は胸の強調じゃなくて人体が曲線に見えること。
そしてコルセットで腰を後ろにつきだしていたっていうのは半分だけホント。
コルセットで腰を後ろの方へ流して方向づけてはいました。
でもさらに②のようにヒップの上にヒモをつけた三日月型クッションを結んで腰を後ろに突き出していたんです。
さすがにコルセットだけで腰を後ろにつき出すのは無理ですよね?
ウェストのS字曲線を描かせてさらにこのスカートのすそで曲線を強調!
スカートのスソはラップ状に長く下に広がっていました。
上の人はモデルさんなので修正されていて、S字曲線が強調されています。
実際の女性たちはこのくらい・・↑↑
たった一つの流行の発生の仕方はコレ!
それでこのS字曲線についての記述は大抵、「女性の骨を変形させて出していたライン」という文で締めくくられます。
あれ、終わっちゃった。
でもこれは結果にすぎません。
別に誰も、「女性をもっともっと変形させてやれ~~!!い~ひっひひ」ってこのS字曲線を生み出したんじゃあ、ありません。
では人体が曲線を描いたほうが良かったのはなぜでしょうか??
正解は~??ほらほら!
正解の前に、ついでに言うと、
「当時流行ったアールヌーボーのスタイルに沿っている」って付け加えられていることも多いです。
この記述もなんとなくあいまい。
事実はもっとわかりやすくはっきりとしたもの。
ええ~?たったこれだけ??
正解は「アールヌーボーの曲線が流行ったから、人体もそれに合わせて曲線を描いた」だけ。
アールヌーボーになんとなく沿っているんではなくて、アールヌーボーそのものなんです。
建築とファッションはいつもセットで流行します。
建築=ファッション
世の中の流行が1600年初期の『威厳』だったら、いかつい極太石造りの城にしたり、肩幅やスカート幅出したり、建築もファッションも横幅出します。
今は何でもスリム化。タワーマンションとスリムな人たち。
1900年のパリ万博の時のことです。
そこで世界初!鉄とガラスでできた建築、グラン・パレがデビュー!
それまで建築と言えばレンガと大理石。
鉄とガラス!工業が発達して安価でガラスが手に入るように、しかも鉄と組みあわせることが出来るようになりました!!
1400年代のガラスは宝石くらい超貴重品で、ヴェネチアのムラーノ島で秘密の技法でコッソリ作られていました。
それがどうでしょう!!
鉄とガラス、この組み合わせは透明で軽やか~~!
パリ万博の装飾デザインのパビリオンではサミュエル・ビングの『アールヌーボー(店の名前)』が大ブーム!
植物をモチーフにした曲線が主体のデザインのものを出品。
元々はイギリスのリバティ百貨店でデビューしたリバティ様式。
この人んちはアールヌーボーインテリア満載~!
そしてよく見ると、能面???
なんじゃこりゃ~!
こわすぎ~~!!
アールヌーボーではジャポニズムと呼ばれて日本のものが大流行!
日本独特の自然の表し方や遠近法なんかが新しかったから。
ヨーロッパの作家たちは日本のものを作品に取り入れたんだよ。
でも能面・・
産業の発達でついに人体にも建築にも、流行の曲線と軽やかさを演出できるように!
まあ、結局作るのがめんどくさいのでこのデザインの流行は長くは続きません。
そういえば全然かんけーないけど、イタリアバロックの巨匠ベルニーニの建築だって、実現がめんどくさいから職人に嫌がられたって。
でもさあ、これ重要だよ。
とにかく人体を変形させることが出来るようになったのも産業革命と工業の発達のおかげ、ということ。
1600年代の初期のコルセットは鉄。
なのでまっすぐなロボットみたいな胴体しか演出できませんでした。
それがどうでしょう!!
コルセットにクジラのボーンをた~っくさん縫い込めば、ぼよよ~~んと人体も曲がるじゃない??
固くてめんどくさいこの作業、あ、ミシンを使えばできるじゃない!?
ちなみにミシンは結構前の1755年に発明されていました。
でも失業をしたくなかった手縫い仕立て屋たちがミシン工場を焼いたりして(1840年)、ミシンはなかなか世の中に広まりませんでした・・
でも1850年にシンガーさんが新型ミシンを発明してシンガー社を作っっちゃいます。(シャレじゃないよ)
それで1900年頃にはミシンは立派に使われていて、コルセットにクジラのボーンをぎゅうぎゅう入れるなんて出来るように。
だってコルセット縫うのって固くて大変なんだもん。
コルセットとレースを使えば軽やかではかなげな曲線を描いた女性たちが作れます!
S字曲線コルセットが女性を変形させたのが良いか悪いかは結果
「S字曲線コルセットは骨を大きく変形させる」、という健康上の問題が発生しましたが、それは後から発生した弊害。
初めは人体も流行の植物曲線を描けるっていうのでみんな大喜びでした。
その結果、骨が変形したのでやっと、400年もの間、女性に必須だったコルセットが取り払われることに!!
コルセットが弊害をもたらしてイヤだったから、やっと次のステップへ行けたんです。
次の時代で女性たちはいよいよコルセットを外します^^
ポール・ポワレとココ・シャネルの登場!
ちなみに男性もコルセットしていましたよ!
男性のコルセットとは一体何でしょうか?
答えはベストです!
ベストにもボーンが入っていてウェストを細く絞っていました。
誰かが曲線を流行らせたらエスカレートするのは当然
ギブソン・ガールとして有名なデンマーク系アメリカ人女優のカミーユ・クリフォード。
ギブソン・ガールとはイラストレーターギブソンさんが描いた1900年前後の理想美を持った女性像。
豊な胸、S字曲線を描く極端に細いウェスト、つき出た腰、そして流れる巻き毛のアップスタイル。
こういう女性たちは理想美を表していたので胸と腰が最も強調されて突き出しています。
S字曲線にする重要ポイント、忘れちゃいけないヘアスタイル
アールヌーボー時代のファッションでは「海藻みたいな髪の毛」が最重要ポイント!
うずたかく結い上げられ、滝のように流れる巻き毛ですね。
細なが~い首も流行!!
なのでスタンドカラーにボーンを入れてさらに首を伸ばしていました。
首長族みたい。
ちなみにボロニーニ監督の『愛すれど哀しく』(伊、1971年)と言うイタリア映画で主人公のブブが髪を結うシーンがあります。
海藻巻き毛で、櫛も使わず手で丸め上げ、ピン一本で留めると、本当にこのようなアップスタイルになっていて驚きました!!
上の写真のぼんやり映っている女性が髪を結い上げたブブ。
まとめ、これがだれも言わないファッション史の公式!
「ファッションと建築は何となく共通点がありますねえ」みたいなあいまいな書き方で終わっている記事がとても多いです。
『建築とファッションの流行はセットになっている』という流行の最重要ポイントを書かないのはなぜでしょう??
建築=ファッションと言う公式を最初から断言すれば、だれにでもわかりやすいファッション史の説明ができます。
稼ぐためにファッション史を使う場合、必ず建築の流行も考えてください。
そうするとそのファッションが流行した理由が見えてきます。
そこから現代にどうリノベーションすればいいのかまで見えてきます。
S字曲線ファッションがなぜ流行ったかと言うと、
- 1900年前後に装飾とインテリアを中心としてアールヌーボーのデザインが流行りだした
- 植物をモチーフにした曲線を描くデザインだった
- 女性自体も曲線を描くようになった
- 人体の曲線を実現するためのS字曲線コルセットの流行
ということです。